多くの美容室経営者やスタイリストの方が、売上向上のために「客単価アップ」を考えているのではないでしょうか。しかし、

値上げはお客様が離れてしまうのでは…
という不安もつきものです。
確かに、単価アップの施策にはお客様が離れてしまうリスク(失客リスク)が伴います。
しかし、そのリスクの度合いは方法によって大きく異なります。
今回は、美容室で客単価を上げるための3つの方法を、失客リスクが低いと考えられる順にご紹介します。



私が実際に行った方法も記載しているので、自店の状況に合わせて最適な方法を見つけるヒントにしてください。
1. 【低リスク】追加メニュー提案(アップセル・クロスセル)


失客リスク:★☆☆☆☆(低い)
これは、お客様が希望されたメニューに加えて、別のメニューや商品を提案する方法です。
いわゆる「アップセル」や「クロスセル」と呼ばれる手法です。
追加メニュー提案の具体例
- カットやカラーのお客様に、髪のダメージや悩みに合わせたトリートメントをおすすめする
- ヘッドスパでリラクゼーション効果や頭皮ケアを提案する
- 仕上げに使ったスタイリング剤や、おすすめのホームケア商品を紹介・販売する(店販)
- 「炭酸泉かけ流し」などのオプションメニューを追加する
追加メニュー提案はなぜリスクが低いのか?
お客様は既にサービスを受ける意思決定をして来店されているため、追加提案への心理的ハードルは比較的低いと言えます。
「押し売り」にならないよう注意は必要ですが、お客様の髪や頭皮の状態をプロの視点から見て、「より良くなるための提案」として伝えられれば、むしろ喜んで受け入れてもらえる可能性が高いです。
成功のポイント
- 丁寧なカウンセリング
お客様の悩みや希望をしっかりヒアリングし、本当に必要としているものを提案する。 - メリットの明確化
なぜそのメニューが必要なのか、それによってお客様にどんな良いことがあるのかを具体的に説明する。 - 選択肢の提示
無理強いせず、「いかがですか?」とお客様に判断を委ねる姿勢が大切。 - セットメニューや初回割引
追加メニューを試しやすい工夫をする。
まずは、この追加提案を徹底することから始めるのが、最も安全で効果的な単価アップ戦略と言えるでしょう。
私の美容室での事例:お客様が自ら選びたくなる仕組み作り
直接的な提案だけでなく、お客様が自ら新しいメニューに興味を持ち、選びたくなるような「仕組み」を作ることも非常に有効な方法です。
私の美容室の事例では、以下のような流れで、お客様からの追加メニュー選択を自然に促しています。
- 効果の可視化
まず、新メニューを少数のお客様に協力いただき無料で体験してもらい、施術前後の変化が分かる写真(ビフォーアフター)を複数パターン用意します。 - 情報発信
ホームページに、収集した写真と共に新メニューの効果や内容を詳しく掲載します。 - 予約動線の整備
WEB予約システムのメニュー一覧に、その新メニューを追加します。 - 全体への告知
公式LINEアカウントなどを活用し、登録しているお客様全員に新メニューの情報を配信します。
このステップを踏むことで、スタイリストが直接勧めなくても、情報を見たお客様が「このメニューをやってみたい」と自ら判断し、予約時に追加してくれるという流れを生み出すことができます。
お客様は「自分で選んだ」という納得感があるため、押し付けられた感覚がなく、満足度も高まりやすいというメリットがあります。
これもまた、失客リスクを抑えながら単価アップを狙える優れた戦略と言えるでしょう。
まずは、この追加提案(直接的なもの、仕組みを作るもの両方)を徹底することから始めるのが、最も安全で効果的な単価アップ戦略と言えるでしょう。
2. 【中リスク】低価格メニューの見直し・廃止


失客リスク:★★★☆☆(中程度)
サロンのメニューの中に、極端に価格が安いメニューや、手間がかかる割に利益率の低いメニューはありませんか?
これらのメニューを見直し、場合によっては廃止することも単価アップにつながります。
低価格メニューの見直し・廃止の具体例
- 「前髪カットのみ」のような安価すぎるメニューの価格を適正化、または他のメニューとのセットのみにする。
- 利益率の低い特定のセットメニューを廃止し、より価値の高いメニュー構成に組み替える。
- ターゲット層と合わない、安価な学生向けメニューなどを縮小・廃止する。
低価格メニューの見直し・廃止はなぜリスクが伴うのか?
その低価格メニューを目当てに来店していたお客様は、価格改定やメニュー廃止によって離れてしまう可能性があります。
「安さ」を一番の理由に選んでいたお客様にとっては、来店動機が失われるためです。
リスクを抑えるポイント
- データ分析
どのメニューが利益率が低いのか、どの客層が利用しているのかをしっかり分析する。 - 段階的な移行
いきなり廃止するのではなく、まずは価格を少し上げる、セット販売のみにするなどの段階を踏む。 - 丁寧な事前告知
価格改定やメニュー変更を行う際は、十分な期間をもって丁寧に告知する。理由も正直に伝えることが大切です。(例:「サービス品質維持のため」「より専門的な技術を提供するため」など) - 代替案の提示
可能であれば、既存のお客様が納得できるような別のメニューやプランを提示する。
低価格メニューの見直しは、サロンのブランドイメージ向上や、より質の高いサービスに集中するためにも有効な手段ですが、対象となるお客様への配慮が必要です。
私の美容室での事例:新規顧客に限定したメニュー改定
リスクをさらに抑える具体的な方法として、「新規のお客様に限定して」低価格メニューの提供をやめる、というアプローチもあります。
私の美容室の事例をご紹介します。
私の美容室では、カラーメニューに5段階の料金設定がありました。
しかし、数ヶ月間のデータを分析したところ、新規で来店されるお客様は、下位2つの最も安価な価格帯のカラーメニューをほとんど選択していないことが判明しました。
そこで、ホームページなどに掲載する「新規の方向けメニュー」からは、その下位2つの料金表示を削除。
「〇年〇月以降初めてご来店のお客様向けの料金です」といった注釈を添えることにしました。
一方で、既存のお客様に対しては、これまで通り下位2つを含む全ての価格帯のカラーメニューを提供し続けています。
このように、データを基に「新規顧客」に対象を絞り込んでメニュー改定を行うことで、既存顧客の満足度を維持し、顧客離れのリスクを最小限に抑えながら、新規顧客に対する平均単価の向上とメニュー構成の最適化を図ることが可能になります。
3. 【高リスク】メニュー全体の値上げ


失客リスク:★★★★★(高い)
カット、カラー、パーマなど、既存の基本メニューの価格を一律、または個別に引き上げる方法です。
最も直接的な単価アップの方法ですが、失客リスクも最も高いと言えます。
メニュー全体の値上げはなぜリスクが高いのか?
お客様にとっては、今までと同じサービス内容で支払う金額が単純に上がるため、最も抵抗を感じやすい方法です。
特に、サロンへのロイヤリティがまだ高くないお客様や、価格に敏感なお客様は離れてしまう可能性が高まります。
リスクを覚悟の上で実施する場合のポイント
- 明確な理由と付加価値
なぜ値上げするのか(技術向上、材料費高騰、設備投資、サービス拡充など)を明確に伝え、価格に見合う、あるいはそれ以上の価値を提供できることを示す必要があります。 - 徹底した事前告知
お客様への告知は、Webサイト、SNS、店内掲示、ダイレクトメールなど、様々な方法で、十分な期間(最低1ヶ月以上前、できれば3ヶ月前)をもって行います。 - 顧客への感謝
これまでご愛顧いただいたお客様への感謝の気持ちを伝え、理解を求める姿勢が重要です。 - タイミングの見極め
サロンの評判が良い時期、新しいサービスを導入した後など、値上げを受け入れてもらいやすいタイミングを見計らう。 - 段階的な値上げ
一気に大幅値上げするのではなく、段階的に実施することも検討する。 - スタッフへの共有と教育
値上げについてスタッフ全員が理解し、お客様に自信を持って説明できるように準備しておく。
全体の値上げは、サロンの価値向上や経営安定化のために必要な場合もありますが、顧客離れという大きなリスクを伴うため、慎重な判断と周到な準備が不可欠です。


私の美容室での事例:付加価値向上による値上げ
値上げの「理由」をどう伝えるかは非常に重要です。
例えば、「材料費の高騰」だけを理由にすると、「では、もし今後物価が下がったら値下げするのか?」という疑問をお客様に抱かせる可能性があり、長期的な信頼関係において懸念が残るかもしれません。
私の美容室では、この点を考慮し、材料費の高騰を直接的な値上げ理由とはしませんでした。
その代わり、「店内全体でウルトラファインバブル(非常に微細な泡)を導入する」という、お客様へのサービス品質向上に直結する設備投資を行いました。
そして、その「提供価値の向上」を明確な根拠として、メニュー全体の値上げを実施したのです。


このように、コスト上昇分を転嫁するという視点だけでなく、お客様が「価格は上がったけれど、それ以上にサービスが良くなった」と明確に感じられるような、具体的な価値向上を理由として提示することが、値上げに対する納得感を得やすくし、失客リスクを抑える上で非常に効果的です。
まとめ


美容室の客単価を上げる方法は様々ですが、失客リスクを考慮することが重要です。
- 追加メニュー提案
最も低リスク。まずはここから強化を。 - 低価格メニューの見直し
中程度のリスク。分析と丁寧な告知が必要。 - 全体の値上げ
最も高リスク。明確な理由と価値、周到な準備が不可欠。
自店の状況や顧客層、ブランドイメージに合わせて、どの方法が最適か、どの順番で取り組むべきかを検討してみてください。
焦らず、丁寧にお客様と向き合いながら、サロンの成長を目指しましょう。